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ギンモクセイ [創作]

「あ・・っ」
思わず声が漏れた。
漕ぎだしたペダルがふっと抵抗をしなくなった。
チェーンが外れたのか、からからと音を立てながら自転車は動かなくなった。
あああ・・何もこんな時に・・。
今にも降り出しそうな重い曇天の下、緊急の夜勤に呼び出され
しばらく使っていなかった自転車を引っ張り出して、
30分の道のりを飛ばしていたのだ。
アキは自転車から降りるとかがみこんでため息をついた。
「もう・・信じられない・・・。」
見事にチェーンがゆるゆると外れているのがわかった。
アキは入れ込もうとチェーンを引っ張って何度もチャレンジしたが
錆びついてでもいるのか、どうしてもうまくかみ合わない。
「もうっ!!」アキはべとべとした手を持っていたテッシュで拭いたが
気持ちの悪さは拭えない。
ポケットからスマホを取り出すと、
職場の介護施設に少し遅くなるかもしれない状況を報告し
閉じようとして一番上にある名前のところで手がとまる。

アキの5年来の恋人のユウだ。
そのまま電話を繋ぐ。
「どうした、アキ?夜勤に行くんじゃなかったの?」
ワンコールもせずにユウの声が耳を打つ。
「自転車のチェーンが外れて入れられないの。」
「えっ?大丈夫?怪我はない?」
慌てるさまが目に浮かんで、なんだかほっこりと胸があったかくなる。
「大丈夫よ。仕方無いから自転車おいてこのまま仕事に行くわ。」
しばらく間が開いた。
「僕が迎えにゆければいいんだけど・・。ごめん。今仕事の打ち合わせで・・。」
最後の方の言葉がつっかえるように言いよどむ。

あれ?っとアキは思った。

前会った時、今日は私の誕生日なので仕事入れないよ、って言っていたのに。
私に急に夜勤の連絡が来て
会えなくなっちゃったと連絡したのはほんの2時間ほど前なのに・・。
「いいのよ。大通りに出ればタクシー拾えるし・・。行ってきますね?」
明らかにホッとしたような声が「いってらっしゃい」と何の余韻もなく電話は切れた。

なんかユウ君らしくない・・変。

急に風が冷たくなり、ぽつぽつと雨が降ってきた。
西からの集中豪雨のニュースも流れていたので、
アキは慌てて自転車を邪魔にならないところに鍵で繋いで、道を急いだ。
大通りに出た頃には、雨はどしゃ降り。
たちまち体が冷え切ってくる。
こんなびしょびしょじゃタクシーも乗せてくれないわね・・。
あと20分も歩けば職場につく。
意を決して、アキは雨の中を走りだした。

ほの暗い街には点々と様変わりする店舗やレストランが、
ぽつりぽつりと柔らかな淡い光を灯して、雨の街ににじんでいる。
半数はシャッターが降りてしまっている過疎の街ではある。
その中のひとつの喫茶店は、アキとユウがよく時間を忘れて話し込む
窓の大きなお気に入りの場所だ。
職場へは通りが違うのでいつもは通らないのだが、大雨を出来るだけ避けて
アキは軒の連なる店舗街へ走りこんだ。
ついいつもの喫茶店へ目をむけると、懐かしい顔が目に入った。

ユウだ。

あら・・?こんなところでお仕事の打ち合わせ・・?

ユウはかがみこんで机上の書きこみを懸命に読んでいるようだ。
向かいには若い女性が座って、やはり同じように同じ書きこみをのぞき込んでいる。
狭い机の上で頭を突き合わせているので、触れ合うように顔を寄せて見える。
ユウの口が動き、それに応えて女性が顔をあげて笑顔を見せた。

アキの顔から血の気が失せた。
女性はアキの高校から親友のマキだった。
「どういう・・こと・・?」
頭の中が真っ白になった。
ユウ君・・仕事って・・私に嘘をついて・・。
なんでよりによって・・マキなの・・?
疑いは妄想を生み、膨らんでゆく。

私・・ずっと・・騙されていたの・・・?

20代後半の5年というのは、微妙な時期だ。
当然、結婚というのも視野にいれる。
友人たちも次々に嫁ぎ、親からのそろそろ・・とのプレッシャーも大きい。
ユウの態度から自分もいつかユウと結婚して・・と考えていた。
今思うと、それとなくそういう話題をふってみても、
なんとなくはぐらかされていた気がする。

それが・・こういうことだったの・・・?

アキは逃げるように窓から離れた。
怒りよりも悲しみが胸を覆った。
ひとりよがりで想っていたことなのかと、むしろ恥ずかしかった。
顔を打つ雨が激しくて、もう雨だか涙だか鼻水だか、自分でもわからなくなった。

気が付くと職場についていた。
大きなバスタオルを掴んでロッカーに駆け込み、
置いてある替えの下着と制服に着替えると
真っ赤に泣きはらした目が鏡に映った。

「大丈夫。今だけ頑張ろう。今だけ、今だけ何も考えない。」

頬をぱんぱんと出場前のプロレスラーのように叩き、
よっしゃあ!とアキはロッカールームを出た。
直ぐにスタッフルームに行くと、真剣な面持ちで先輩が立っている。
「何か急変ですか・・?」
アキが尋ねると、

「北の505号室のスズキさん。アキさんの担当ですね?」
「はい。」
介護士になって最初の時からずっと担当していた利用者さんだ。
孫のようにアキのことを思ってくれているのか、
ずっと変わりなく可愛がってくれていた。
アキは寒さだけでなく、心底震えた。
スズキのおばあちゃん・・昨日まであんなに元気だったのに・・なにかあったの・・?
「すぐに行ってください。」
「はいっ!」

アキがゆくといつも開いている部屋の扉が閉まっている。
ここは5人部屋なのだが、今はスズキのおばあちゃんとタカハシさんが暮らしている。
灯りも消えている。
アキはおそるおそるドアをノックした。
「スズキさん、タカハシさん。アキです。はいりますよ?」
中に入るとカーテンが皆閉じられている。
アキは入口の電気のスッイチを入れて、
一番手前のスズキのおばあちゃんのカーテンの中に入った。

彼女はベッドに寝ていた。

「スズキさん・・?どうかなさいました?アキですよ?」
スズキさんの閉じた瞼と口元がぴくぴくと痙攣した。
「スズキさん・・?」
アキが手をそっと握ると、スズキのおばあちゃんの目がぱっちりと開いた。

「アーキちゃん!おめでとーうっ!」

アキはぽかんとスズキのおばあちゃんの顔を見つめた。

スズキのおばあちゃんはむっくり起き上がると、アキに抱きついた。
「アーキちゃん、お誕生日、おめでとーうっ!!」

「え?え?」

その時閉まっていたカーテンが音を立てて開かれた。
「アキさん、ハッピーバースデーイッ!!」

アキはびっくりして飛び上がった!
開いたカーテンの後ろには、アキが担当している利用者さんが杖で支えられ
車椅子を押され、皆、手に手におめでとうと書かれたカードを持ち
手の空いたスタッフと共ににこにこと集まっていた。
一番後ろには先ほどの先輩が、くすくす笑っている。

「なに・・?どうして・・?ええーーっ?!」
アキはきょろきょろと周りを見渡した。
みんなが一斉に笑う。

「アキさんのお誕生日、みんなで何かしたいねと言っていたの。」
タカハシさんが笑顔で話した。
「スタッフの方々が協力してくれたのよ?」

その時、扉が開きみんなが一斉に向き直った。

「ユウ君・・・?」

彼は一張羅のスーツを着込んで手に赤い薔薇の花束を持って立っている。

ぎくしゃくと彼はアキに近付くと、目の前で片膝をついてアキの目をみつめた。

「アキさん。僕はあなたと幸せな家庭を築きたい。
どうか、僕と結婚してくれませんか?」

え?え?なにこれ?プロポーズ・・?

アキははるか遠くの方で自分の声を聞いた。

「もちろん。喜んで・・」

うおおおおおーーと外野の方から声が上がった。
扉の向こうで親友のマキがにこにことこちらを見ている。

そうか・・この打ち合わせを二人でしていたのね・・。
こんなこと、ユウ君じゃ考えないもの・・。
マキの入れ知恵ね・・。

胸ポケットから取り出した小さな四角い箱から指輪を出すと
ユウはアキの指に細い指輪をはめた。

「今はまだこれしかできないけど、絶対幸せになろうね?」
アキの目からぽろぽろとあったかい涙が溢れた。
頷くたびにそれが胸に落ちた。

スズキのおばあちゃんが自分も涙を流しながらそれを見ていた。

「アキちゃんはいい子だからねぇ。みんな幸せになって欲しいんだよ。」
そして笑顔のまま目を閉じた。
「こんな幸せな日に立ち会えて、ほんとに今日はいい日だねぇ!」

しばらくしてぽんぽんと先輩が手を鳴らした。
「はーい。お開きねー。みなさんお部屋に戻ってくださいね?
アキさん、呼び出してごめんね。
今日は本当は予定通りお休みなのよ。
ユウさんとこのままお帰りなさいね。
明日は早番、忘れないでね?」

「ありがとうございます。みなさんほんとうにありがとう。
私、今日の事ずっと忘れないね?」

そしてマキの方に走り寄ると、きゅうっと抱きしめた。
「ずっと親友でいてね?ありがとうマキ。」
マキも泣きながらぎゅうっと抱きしめた。
「お幸せにね。」

「ユウ君。私すごく嬉しいわ。」
ユウの車に乗せられて、アキは自宅に着替えに向かっていた。
「これからが始まりだよ。僕は君のご両親にも許可をもらいに行かなくちゃ・・。
アキのお父さん怖そうだもんなぁ・・。でもアキをもらうためだ、頑張らなくちゃ。」
「ユウ君のご両親のところにもゆかなくちゃね。」
「それは任せとけ!もう許可はもらってる。」
「ええーー!私よりも先に?」
「うん。どうしても店を継がせたいというからさ、それの説得に手間取ったよ。
アキは今の仕事に誇りをもっているからね。」
ちゃんと考えていてくれたのね、
私の事真剣に・・。
大丈夫だわ、私。
ユウ君となら私は私らしく、ユウくんはユウ君らしく二人で生きて行ける。

雨はいつの間にか通り過ぎて
雲の間にまあるい月がまぶしいくらいに差し込んで
車の運転をするユウの横顔を照らしていた。
信号で停まると、雨に濡れたアスファルトに反射して賑やかな色が混じり合う。
アキが窓を開くと、光の届かない夜の闇に白い小さな花が浮かび上がる。
ギンモクセイだ。
幽かな甘やかな香りが車の中まで運ばれてきた。















ううーん。
書きたいことはいろいろあれども、
なんともはや・・。

あれもこれもと思ったのですが
すべて座礁・・。

で、何が言いたいの?ということで
必ずきっと、今はどしゃ降りの雨の中であっても
君は幸せになれるということ。
ならない訳はない、ということ。

だって君は何よりも素晴らしい
魂の炎を胸の奥に燃やしているのだもの。

お誕生日、おめでとう!

君の人生にいつも光が共にあるように。

2017年11月5日
我が友、Xephonさんへ。


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足音 [詩]

とんとんとん。

小さな足を踏み鳴らす

僕はここだよ
ここで生きてる
僕はここだよ
ここで笑っている

とんとんとん。

君のこんな近くで
僕は叫ぶんだ
君の心の上で
僕は歌うんだ

ほら
これは君の心臓と同じ音
ほら
これは君の呼吸とおなじ速度

とんとんとん。

僕と君

終焉と永遠



とんとんとん。

とんとんとん。











ことことと僕の中でずっと音が聞こえています。
気が付くとそれは彼の足音になっていました。
きっとこの音は僕の心臓と連動してしまったに違いない。

僕と共に生き続けてほしい。
たとえどんな嵐が吹いて、君の姿が見えなくなってしまっても。




リヴリーアイランドが続く事を渇望して。

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 [雑記]

彼を一言で言いあらわすなら
『人生の達人』だろうか。

仕事を楽しみ、家族を愛し、
ささやかな庭を慈しみ、花を育て
美味しいものを愛し、それを人にふるまうことに歓びを感じられる人。

大学の同期生だった奥さまは
ころころとよく笑い、よく語り
そのそばに寄り添うように、にこにこといつも彼は立っていた。
幼い子供相手に手抜きなしで全力で遊ぶ姿。
彼の周りはいつも賑やかな笑い声が満ちていた。

穏やかで親切で、こうありたいと思う具現化のような人。

僕と出会った頃にはもうすでに、難しい癌の手術を終え
ばりばりと働いていた。
それから5年。

食事制限。
さまざまな良かれと思うことを積極的に取り入れ
禁煙は勿論、大好きだったお酒も我慢していた。
それでも少しずつ少しずつ、癌細胞は生き延びてきたのだ。

再発からひと月と少し。
彼は亡くなった。

覚悟はしていたと思う。
家族皆にこれからの事をしっかりたくし
最期の日は、大好きなアイスを奥さまと楽しく口にし、
その元気な様子に、病室を出て帰宅しようとする奥さまに向かい
「今まで長い間ありがとうね。」というのが最期の言葉であったという。

そのまま昏睡状態に陥り、静かに眠るように亡くなった。
穏やかな穏やかな死であったという。


僕も今長い闘病の途中にある。
友人には病院通いの入院仲間も多い。
こんな環境の所為だけでもないだろうが、葬儀に参列することが多い。

腹水もたまり、抗がん剤の治療も苦しいものであったと思う。
だがこんなに穏やかな死に顔を拝見したのは初めてだった。
かすかに微笑んでいるようにさえみえる。
死してもなお、こうありたいと思える見事な死というものはあるものだ。

若くしての死は、ご家族にどれだけの哀しみだとは思うが
やりたいことをやり遂げ、大好きな人に囲まれ、これほど愛し愛された人生。
僕には眩しいくらいに羨ましく思えた。

葬儀は多くの友人知人が押しかけ、焼香の後ににひとりずつ声をかけて行かれた。
大きな声で「ありがとうございました」「おせわになりました」と
震える声でかけられる言葉に、彼の人柄がよくわかる。
大好きな丹精した庭の花を棺に溢れるほどいっぱいに、彼は旅立った。


彼の訃報に接してもう10日ばかりだろうか。
未だに僕は彼の事が頭を離れない。
冷たい頬に触れても、彼がもういないということに頭がついてゆかない。
今まで友人の死に接すると、僕は次は自分ではないかと心が震えた。

でも初めて僕は思ったんだ。
僕はまだ生きている。
まだ自分の思うことをこうして自分の体を使って出来るじゃないか。

怯え悲観して絶望する時間も
楽しく出来ることをする時間も、
僕が自由にまだ選べるくらいには生きているじゃないか。


彼はきっと言うだろう。
「僕の時間は終わったけど、君の時間はまだあるじゃないか。」
「悔やまないように、精いっぱい生きてゆけよ。君が楽しめばいいんだよ。」



この記事を書き始めた時
雨をぬって西の空に久々の見事な夕焼けをのぞんだ。
ふと振り返ると
反対の東の空に大きな明るい虹が綺麗に半円を描いていた。

もう一度激しく強く彼を思った。
涙が止まらなかった。

それでも口元にはようやく笑みが浮かべることができた。


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根性なしのハニーハント [雑記]

無抵抗のまるまるしたミツバチをぽかすかと退治するイベント。
攻撃するとハチは黒くなり下に落ちて動かなくなる。

13年前初代リヴリーを戦闘で亡くした僕は
リヴリーを戦わすことはもうしないと誓った。
今回のようなイベントでは相手は抵抗なくやっつけられるので
リヴリーを喪う痛みはない。

でもなんか嫌なんだ。
自分の大事なものが、
無抵抗のものを一方的に殴ってアイテムを奪う、というこのシチュエーションが。

Flash終了を受けて、最近いろいろ大掲示板でぼそぼそ意見を言っている手前
流石に嫌だから参加しませーん、じゃ説得力もないなぁと
一度はやってみるかと今回参加させてもらいました。
なんとか盛り上げるきっかけをつかめるかなぁという気持ちもありましたから。

パークでは放浪ではいない白ハチがいるので
コンプリートするにはどうしてもここに出現するハチを取りに行かねばならない。
僕のリヴリーのレベルは909。
あんまり人気のないムシチョウの種族経験値で、上位にランキングされている。
一番弱い投石の技で2回でハチは落ちてしまう。
そりゃあ一緒に集まった飼い主さんもえーーってなるでしょう・・。
高レベルのリヴリーが独占しちゃうよーと涙ながらも訴えも
大掲示板で複数見ていたし。

一度に出現するハチは5匹。
集まったリヴリーは4匹~7匹ほど。
初心者レベルの方にも行き渡らせたいので
誰かが攻撃してくれた留め射しをするしかないから
1時間3回ほどのトライでおおよそ5個から7個のアイテムを収穫。
白ハチは15匹、赤ハチは25匹、青ハチは35匹、
一番よく出る黄ハチは95匹でコンプーリート出来るのだが
この時点でもう頭がくらくら・・。
どれだけの時間と手間で、この気の使う作業をすれば・・。

せめて放浪の時の出現数がもっとあれば奪い合いにならないのに・・。


こんな仕様で盛り上がるのか・・?

時間と根性の無い僕はもうこりごり・・。

今回はVIPにしよう・・。

「はちみつホットケーキ」はうちの子は喜ぶだろうしなぁ・・。

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おたんこなす [雑記]

駅に向かう途中の細い路地裏。
50m弱くらいの長さだろうか、車が一台通れる幅の道路がある。
便利がよいので、駅に行く人や駐輪場に停めに行く人たちが
時間を選ばずいつも数人歩いている。
両脇が有料の駐車場であるため、まあ反対側から車が入ってきても
逃げ場がなく全く通れない、ということではないが
駐車場が満車であったりすると、車同士のすれ違いはかなり厳しい。
両入り口ともミラーはあるし、路地裏といえども直線なわけだから
侵入すればつまっちゃうな、というのは普通解るので
よほど強引に侵入しない限りは、お互いの譲り合いでトラブルにはならない。

先日たまたまこの道を歩いていた時
甲高い若い男性の声で「この、おたんこなすが~~っ!!」という罵声が聞こえた。
見れば僕の向かっていた方角の出口付近で、車が二台身動き取れずにいるようだ。
位置から言って、叫んだ男性の車の方が後から侵入してきたのは明らかだったが
反対側から僕の脇を抜いて進んだ車は、年配の男女が乗っていたようで
運転していたのはご婦人の方だった。
なんとか車を切り返そうと、歩いている人の見守る中
バックしたりハンドルを切ったり、見るからに危なっかしい。

若い兄ちゃん、バックしてやれよーと誰もが思ったと思うが
すでに兄ちゃんの後ろの侵入口には、3台4台ほど車が並んでしまっている。
沢山の見物客の中での
混乱と羞恥の中での思わず出てしまった「おたんこなすー」の一言だったと思うが
これには、この車の所為で歩みを止めさせられていた通行者の
一斉の失笑をかってしまった。

まあ、間抜けとかノロマであるとかの意味の罵声ではあるが
この言葉を最後に耳にしたのはいったいいつだったろうか。
まして20歳過ぎたばかりくらいの男性が使うのを初めて聞いた。

「おたんこなす」は「おたんちん」から転化した言葉といわれる。
そもそもは遊郭などで嫌な客を表す隠語だったと聞く。

「馬鹿やろう」でも「阿呆」でも「間抜け」や「鈍間」でもなく「おたんこなす」。
勿論、自分の祖父母くらいの年配者に向かってとんでもなく失礼なことだし
まして非は若者の方にあると思える。
頬を赤らめて、汗をいっぱいかきながら運転していたご婦人には申し訳ないが
このなんとも子供っぽいその場にそぐわない言葉に
足止めされていた見物客たちはどっと笑った。

結局若い兄さんは、そこで見兼ねたらしい強面の労務者風の男性に
叱られながらも誘導してもらい、無事2台はすれ違って反対の方向へと走り去った。

言葉は生き物だと思う。
同じ状況で気持ちを伝えるのも、言葉のチョイスを間違えると取り返しのつかぬ事態にもなる。
きっとこの青年は、親やもしかしたら祖父母にこういわれて育ってきたのかもしれない。
決して褒められた言葉ではないが
語彙が乏しくなったと言われる昨今、もっと殺伐とした言葉しか聞かなくなった罵声も
こんな言葉一つでふっと冷静に返れるならそう悪いものじゃないかな、と感じてしまった。

どうぞみなさまも事故のないように。

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おわりのはじまり [雑記]

愛着だなぁ、と思う。

今の事務局にFlash移行の力と活力があるのか。


今回の事でつけ刃的に調べたところによると
Flashは今主流のMTML5のように信頼性が高いものではないらしい。
ネット上では重くセキュリティ面の脆弱性もよく問題視されていたし
故ジョブス氏はいちはやくFlashのスマホへの導入を見合わせたとも聞く。
地上波放送がデジタル放送に切り替えられたように
今の流れではFlashの終焉は致し方ないこととも頷ける。

ただ問題はゲームなのだ。
リヴリーアイランドなのだ。

育成してゆくのを目的で始められた
あったかくも優しいコミュニュティーツールを
美しくも愛らしい毎日の歓びとなっていた場を
殺伐とした殺戮や戦いの日々ではない穏やかなゲームを
永久に喪ってしまうのではないか・・という

ゲーム業界の稀有なる存在なだけに大きな損失になると思う。

これは長い時間をかけて飼い主とともに作られてきた、大切な財産だと思う。



これを移行できるのは、事務局の情熱だけだ。
護りたいという熱い想いだけなのだ。


あと3年。
されど3年。



僕は何が出来るだろうか。


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大好きなリヴリーアイランドの住人として。 [雑記]

不具合のメンテが始まって5日目。

大掲示板をみると憂える声で溢れている。

自分も先日のWindows10のedgeの強制更新で
すっかり使い勝手が悪くなったPCだから言うわけではないが

そりゃあ不具合もあるでしょう。

15年間の長い間、歴代のOSを乗り越え
それに沿うよう調整し調整し、遊べるように頑張ってきてくれていたのだと思う。

すぐに停まってしまったり、画面が真っ白になってしまったり
それでも何とか先週までは騙し騙しでも動いてくれていた。

だが今回は様相が違う。
あきらかにその場限りのメンテだからすぐに元の不具合に戻ってしまう。
しかも何も経緯の説明や、早めの不具合のためのメンテナンス予定の説明がないから
ユーザーには不安しかない。

おりしもMicrosoft社の方で3年後にFlashの終焉のニュースが伝えられたばかりだ。

運営も今まで何度か変わってきていた。
それほど思い入れはないのかもしれない。
ただのお金稼ぎのサイトのひとつだ、と揶揄する人も多い。
ただ積極的に研究発表会へ参加できた僕は、
直接スタッフの人たちと会うことが出来た。
彼らも僕たち同様、とてもリヴリーを大事に可愛く思ってくれていたと信じたい。

僕はこのリヴリーアイランドに13年ほど住んでいた。
今ここの住人は、僕のように長くここにいて
リヴリーそのものに愛着のある飼い主も多いと思う。
あかちゃんが生まれて、成長して義務教育を終えるくらいの年月。
自分の入院でどうしてもインできなかった時も
友人たちに支えられ生き延びてこられた大事なリヴリーは
もはや0と1の羅列で作られたものではなく
生活の一部となっていたことに気づく。
数カ月ぶりに目にした元気なわが子に、しばらく涙が止まらなかった。

そんな子を、こんな形で終わらせるのは心がどうしても納得できない。
ユーザーの気持ちをないがしろにして、逆なでするような
事務局の対応が納得できない。

不具合があったことは経験上仕方がないことだと僕は思う。
ただ問題なのはその後の対応だ。
説明してもどうせわからないだろう、というのは失礼な話だ。
いったい今何が起こって、
システムの移行は可能なのか、
それによって今後どうして行くつもりなのか
そもそもメンテをいれるつもりなら、最低でも前日までにユーザーに報告すべきだ。
それによってこちらも動けることも多々あるのだから。



勘違いしないでほしい。
僕らは運営を責めたいんじゃない。
ただ、リヴリーを活かして続けたいだけなんだ。


切に切に願う

僕は納得をしたいんだ。


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エスカレーターの片側空け、という習慣。 [雑記]

僕はよく駅を利用する。

最近は当たり前のように上り下りのエスカレーターが各駅にあり
エレベーターも列を作って乗り込むのもよく見る風景だ。

歩行が困難で、このところ杖に頼って歩くようになって特に思うようになった。

「エスカレーターで脇を抜けて歩かれるのは、怖い。」

元気な時は健脚でならした僕ではあるのだが
病を経て歩行困難の上、腹に傷を持ち、
指もうまく使えなくなり、オマケに過度の貧血持ち。
身体的にはおそらく150歳くらいな体力で
しっかりエスカレーターの手すりに掴まってはいるものの、ぽんと肩を押されただけで
奈落の底へ落ちて行く恐怖がある。

一度かなり空いていた下りのエスカレーターの半ばほどで
軽い貧血を起こしたタイミングで、後ろから横を歩いて来たサラリーマン風の男性の足に杖が当たり
手から叩き落とされた杖だけが、階段の下まで落ちるという事があった。
僕はというとしゃがみこんで手すりにしがみついたおかげで、転落は免れたが
もし下に誰か、まして幼い子でもいたらと思うとぞっとした。

そのサラリーマン風の男性は、走って杖を拾い上げ、
また走って僕のところまで戻ってきて、平謝りに謝罪をしてくれた。

なぜ片側を空けて乗ることが、マナーのように言われるのだろう。
エスカレーター会社の人も、
片側だけに乗ることはバランス的にも早く壊れやすく、
そもそも歩くようには設計されていないので
とても危険だと盛んにPRしていた。

駅の混雑緩和のため・・という人もいるが
片側だけの一列に並ぶための混雑なら、
初めから二人ずつ乗れば2倍速く進むんじゃないだろうか。

確かにすべての駅に階段と、エレベーターがあるわけではない。
急いでいる人は階段行きなさい、といえない事情もあるだろう。



一昨日の病院の帰り、赤ちゃんを前に抱っこ紐でくくった若いお母さんが
件の駅のエスカレーターの空き側を、高いサンダルのかかとを鳴らしながら降りて行った。
もしひっかかって転倒して転落したら、まず一番のダメージはあの赤ちゃんだろうな、と
そう思いながらも、片側を開けて通らせてしまった僕も
その時は同罪だな‥と思ってしまった。



エスカレーターの片側を空けているということは、マナーじゃないと思う。
マナーというのは、周りの人に迷惑をかけないように忖度をすることだ。
元気で急ぎたい人の気持ちを慮ることではなく
年配者や身体的に不自由な人などの、気持ちを推し量ることこそがマナーじゃないだろうか。
狭く、動いているものに乗っている不安定な状態な人の横を、体をぶつけながら通るほどのことが
何故マナーとなったのかの方が不思議だ。

これは習慣でしかないと思う。
習慣は頭で考えれば、きっとなおせて行けるものだと僕は思う。


遅れそうな約束。
行ってしまいそうな電車。


それは果たして、誰かに大きな怪我や
取り返しのつかないことと引き換えにしてでも大事な事なのか。

僕も含め、頭でまず思考してみたいと思う。


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ありがとうチェスター [雑記]

今朝訃報が入った。
かねてから好きでよく聴いていたバンドのボーカルが亡くなった。
自殺であったらしい。
享年41歳。

5月に親友を亡くし、薬物やアルコール依存もあったという。

秋には日本でのライヴもあり、
ようやくチケットをとれたんだと大喜びしていた友と
涙もなく絶句した。

たとえようもない虚無感。
やりきれない絶望感。

ああ、この感じを僕は何度も知っている。

夢を叶えられなくて、病気とそのあとの想像される結果に恐怖して、
生活苦で、人間関係に疲れ果て、自分の居場所を見いだせずに・・。

僕の知人たちは僕の人生から退場してしまった。

その度に残されたものは問うのだ。
自分の無力さに絶望しながら、僕に何かできたのではなかったのか・・と。

だが悲しいことに、死のうとする強い意志をもったものを止めるすべは
どんなに親しい間柄でも、家族でもありはしないのだ。

その閉じた心に届くまで、何度も何度も呼びかけて、
自分にとってその人がどれだけ大事で必要であるかわかってもらえるまで
聴いてもらうしかないのだ。


彼の情感溢れる声はもう聴けない。
彼の思想、彼の哀しみ、彼の歓び・・・
美しい時間をくれた彼はもういないのだ。


彼を奪った彼を恨む。

それでも

ああ・・それでも


沢山の美しい刻を与えてくれた彼に
僕は心から感謝をしよう


チェスター。

寂しいよ。

会いたいよ。


でも沢山頑張ったんだよね。


どうか安らかに。




いつかきっとまた会える時を楽しみに。
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小説 中編 『ジグゾーパズルの一片』 [創作]

彼を突き動かしたものは『怒り』であった。
あたたかい場所を奪われた怒り。
お腹いっぱいの満足な眠りを奪われた怒り。
そして何より今のこの理不尽な暴力ともいえる
訳の分からない真っ暗な状況に閉じ込められるという怒り。

きっとよくないことだという予感はあった。
震えて救いを求めるような兄弟たちの鼻声も、
自分は決してたてるまいと、揺れ動く暗闇の中で四肢を踏ん張って耐えていた。
ようやく車から降ろされて、箱を開けられたとき
彼は兄弟たちをかばうように、自分たちを見下ろす人間をにらみつけた。
「元気でな。いい人に拾われろよ。」
人間は身勝手だ。
散々良い想いをさせてから、自分がいらなくなると余計なものとして捨てる。
それなら最初からなぜ僕らを産ませた。
苦しみをより苦しませるために、幸せな時を与えたのか。
それなら最初から関りを持たせるな。

人間が箱を空けて立ち去ると
ずんと寒さが落ちてきた。
寄せ合っても互いの冷たさが新たな震えを呼んだ。
これ以上ここにいては体力が失われて動けなくなる。
彼は箱に体当たりをしてみた。
箱は少しずれただけだった。
縁にわずかにかかる足でよじ登ろうとするが、何度も背から落ちてしまう。
「諦めない!ここで出来なければ生きて行けなくなるんだ!」
狭い箱の中で、思い切り助走をつけて縁に向かって飛び乗った。
腹のところに縁の角が食い込んで、鋭い痛みを感じたが
彼は後ろ脚をばたつかせてようやく箱の牢獄から這い出すことが出来た。
箱の中から兄弟たちの鳴き声が聞こえた。
どうにか連れ出せないか、何度も箱を調べても噛みついても
箱はピクリともしない。
彼は川べりまで降りるとたらふく水を飲んだ。
みんなにも飲ませてやりたい・・。
胸の大きな痛みとつかえが、涙となって溢れてくるようだった。

なんて・・無力なちっぽけな存在なんだろう。
生きていようが死んでしまおうが、誰も気づかない何も変わらない。
何のために?そんなこと知るもんか。
僕は生きている。まだ生きているんだ。
僕は僕が生きると決めたんだ。

彼は丈高い枯れた草原を歩き始めた。
川を外れると住宅街があり、狭苦しい家々の立ち並ぶその向こうは
川の流れよりも早い自動車が、列をなして同じ方向へ流れて行く。
ふと彼は足を止めて、鼻を空に向けた。
食べるものの匂い。
彼はふらつく足で、その匂いがする一軒の家の前に辿り着いた。
用心深く、ゆっくり垣根の方から中を窺う。
小さな老婦人が、背を丸めて何やら食事を作っているのが
明け放した庭側の窓からみえた。
どうやら焼いているお肉の煙を外に出そうと窓を開けているらしい。
彼はその後ろ姿を凝視しながら、一歩一歩と近ずいて行く。
自然にあふれたよだれが、ぽたりぽたりと地面に落ちるのも気づかない。
老婦人が肉を皿に盛ると、振り返ってテーブルに置こうとした・・
と、彼女は今まさに窓から足を家に踏み込もうとしている小さな犬に気が付いた。
「ぶたれる!逃げなくちゃ!」
彼は腰は引けているのだが、足が勝手に前に進んでしまう。
老婦人はそんな彼を驚いたように見つめたが、すぐにまた後ろを向いた。
そして棚から小さな皿を取り出すと、盛り付けた食事を少し取り分けた。
「なんとまぁ。かわいらしいお客さん。お腹が空いているんだね?」
彼女は静かに少し離れたところにその小皿を置いた。
「おいで。たんと召し上がり。」
彼はおそるおそるその小皿に近付くと、老婦人の方を見ながら一口食べて、
さっと後ろに飛びのいた。
口の中にひろがる温かさ・・。それが胸に落ち腹に落ちてゆく。
ああ・・うまいなぁ。
そしてもう一度小皿に近付き、今度は顔を埋めるようにして貪り食った。

それを見て老婦人はそっと冷蔵庫から出した牛乳を鍋にかけて温めた。
すこし冷ますと、別に小皿にそれを注ぎ、子犬の横に静かに置いた。
「迷子になったのかね?かわいそうにねぇ。」
老婦人は、ゆっくりと子犬の頭に触れた。
彼は少しびっくりはしたが、逃げることはしなかった。
口だけは一生懸命動かしてはいたが。

きれいに平らげると、今度は眠くなってくる。
老婦人のそばはあたたかく、柔らかなバスタオルはとてもいい匂いがして
それにくるまれると、なぜかとても安心できた。
老婦人は笑いながら、
「うちの子になってもいいんだよ?」と言っていたのはほとんど夢の中ではあったが
尻尾を大きく振って応えたのだけは、なんとなく覚えていた。

それから二人の共同生活が始まった。

老婦人は独り暮らしだったが、ひっきりなしに人が訪れた。
彼女の話では、その人たちは「はんばいいん」という種族らしく
彼女の持っている「お金」というものが大好きらしい。
「お金」をみんな持って行かれると、彼女はとても困るらしいので
僕の仕事はその「はんばいいん」たちを追い払う事だ。
その代わり彼女は、僕の食事とお散歩と
あったかい寝床を用意してくれることになった。
足の少し不自由な彼女のお散歩は、僕のペースじゃなく
彼女に合わせるもので、「いい運動」というものになるらしい。
僕はすぐ彼女が大好きになった。

部屋の中に敷き詰められた新聞紙のがさがさもようやく外され
毎日通った河川の匂いに兄弟たちを探すのも、儀礼的になってしまった頃
事件が起きた。
毎朝良い匂いで目覚め、彼女の姿をみつけて挨拶をするのだか
今日はなんだか部屋が寒々しい。
僕は彼女の姿を探した。
まだ布団の中にいるらしい。
鼻先でちょんと顔をつついてみる。
薄く目を開けて何か言うのだが、聞き取れない。
なにか・・おかしい。
そうだ、匂いだ。いつもと違う。何か違う匂い。
僕は彼女のパジャマの袖をひっぱる。
だめだ・・。動かせない。
人間の手を借りなくちゃだめだ。
無力だった自分を、いなくなった兄弟たちの姿がふと頭をよぎる。
大事な僕の家族。
喪って・・たまるかっ!
僕は家を飛び出した。
走って走って走って走って
お散歩途中でいつも挨拶するヒゲ面の親父のところまで駆け抜けた。

呑気に家の前であくびをしている親父の前で激しく吠えた。
「なんだなんだ?」
びっくりしている親父が目を丸くしている。
僕は何度も吠えて、後ろを向いて駆けることを繰り返した。
しばらくきょとんとしていた親父も、
「シズさんのところのコタロウだよな?ついてゆくのか?」と車に乗り込んだ。
僕は急いでまた家に戻る。
すぐ後ろをヒゲ親父の車がついてきて、家の前につくなり飛び降りてきた。
「シズさん!シズさん!どうした!なにかあったのか?」
玄関をがたがたして鍵がかかっているので、庭から親父が入ってきた。
「すまんがあがるよ!コタロウどこだ?」
僕が顔を出すとすぐに親父が老婦人のところに駆けつけて声をかけた。
「シズさん!どうした?具合が悪いのか?起きられないのか?」
彼女がまた薄く目を開けて微かにうなづいた。
ヒゲ親父は見かけに似合わずてきぱきと救急車の手配をすると、
僕の頭を優しく撫でた。
「でかしたぞ。よく知らせてくれたな。大丈夫。シズさんは心臓が悪いから
きっと発作を起こしたんだな。」
直ぐに救急車のサイレンが近ずいてくる。
ヒゲ親父は外に出て救急隊員を誘導すると、大きな声で言った。
「シズさん、心配するな。コタロウは僕がしばらく預かるから。
後の事は気にしないで、元気になってもどってきてくれよ?。」

両の手を合わすようにした老婦人がストレッチャーに乗せられて搬送された。
その後ろでヒゲの親父と犬がいつまでも見送っている。
「お前すごいな。誰も出来ない事、したんだぞ?
人の命を、今救ったんだぞ?」
コタロウと名付けられた犬は静かに尻尾を振った。
「まあ、家族だからね。当然のことをしたまでさ。」
「お前もなかなかのもんだったよ。ちゃんとわかってくれたからね。」
ひとりと一匹は同時に顔を見つめ合った。
そして同時にふっと笑った。

僕が生き延びてこうしてここに来れたから、シズさんは死なないですんだのか。
それなら僕は生きてきたことは無意味なんかじゃない。
大事な人を守ることが出来たんだから。
シズさんが戻ってきたら、もっといっぱいお話をしよう。
そうだ、僕の兄弟の話もしよう。
美しかった夕日の話もしよう。
まるまるとした雀が僕のご飯をたべちゃった話もしよう。

家族なんだもの。
相棒なんだもの。

かけがえのない人なんだもの。

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