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小説 中編 『嵐のあと』 [創作]

ぽきん。
足元で枯れた枝を踏み折ったようだ。

どのくらい歩いていただろうか。
いつから歩いていただろうか。
心の中がざわざわして足を止めた。
僕はどこに行こうとしていたんだっけ。

左右を見渡しても上を見ても、白く厚い霧に覆われていて
足元すら白い靄でよく見えない。

ぶるっと身震いがしたが、寒いわけではない。
まるで体温と同じ温度のミルクに、心地よく浮いているような気分になる。
きっとおかあさんのお腹の中って、こんななんだろうな・・と考えて
おかあさんの顔を思い浮かべようとして何も思いだせず
ひどく疲れてしまって、考えることをやめた。

事の異常さで、心のどこかで警報がなっているのだが
夢かな・・と思うと、もう考えることも止めてしまった。

ひたすら疲れない足を前に進め、歩いてゆく。
「ねえ、どこに向かっているの?」
耳元で聞こえたのか、自分が考えたのか分からなかったが答えが口をついた。
「この先にゆくんだよ。」
「この先に何があるの?」
体の左側に微かな空気のゆらめきを感じ、横を向くと、
触れるか触れないかの近さで若い女性が、歩幅を合わせて歩いていた。
「僕は・・知らない。君は?」
「私も知らないわ。」
若い女性は親し気な笑顔で顔を覗き込んできた。
「やっぱり男前ね。私が解る?」
眼を閉じて思い出そうとして、また頭が痛くなって首を振った。
「ごめん。君の事おぼえていないや。」
まぁ・・。若い女性は大きくため息をついて、芝居じみて肩をすくめてみせた。
「仕方ないけど・・なんか悔しいものね。」
そしてくすくすと笑った。
「こっちを向いて頂戴。」
僕の前に立って道を遮ると、顔に両手を伸ばしてきた。
避けようか悩んでいる間に、彼女は少し背伸びをして頬に触れていた。
その手はやわらかく細くてひんやりしていた。

「あなたが覚えていなくても、私は覚えているわ。ずっと、ずっとね。」

眩暈を感じて目を閉じた。

「さあ、戻りなさい。あなたの時間はまだきていないわ。」
そう言うと、とんと肩を押されて僕はよろめいた。
慌てて目を開く。
霧に煙る林が宙に浮いていて、先ほどの女性がその縁で微笑んでいた。
「またね。いつもそばにいるからね?幸せになってね?」

落ちながら僕は泣いていた。
落ちながら思い出したのだ。あの顔は・・昔写真で見たんだ・・。
若い頃の・・女学生の頃のばあちゃんだ・・。
「ば、あ、ちゃん・・。ばあちゃんっ!ばあちゃーんっ!!」




ひどい痛みで叫びながら目を開いた。
「気が付いたぞ!男性救助!」
目の前でオレンジの救護隊が走り回り、赤色灯がくるくるあたりを点滅させている。
直ぐに酸素マスクがつけられタンカが持ち上げられた。
周りの景色が見える。
耳にはいったのは、機械の喧騒をついて叩きつける雨の音。
その雨に煙る中、
目を疑う光景が、いろんな方向からあてられた強いライトに浮かび上がる。
住宅街の裏の山が崩れて、ピンポイントで住み慣れた家を押しつぶしていた。
今見えるのは土にうずもれた、二階の屋根の一部だけだ。
救助隊が掘り起こしてくれて、自分を救出してくれたのだと気付く。

そうだ、ばあちゃんと夕食を食べていて
・・僕はさっさと二階にあがって、うとうとしていたんだった。
あがるまえに振り向くと、ばあちゃんがよっこらせと立ち上がって、
食事の洗い物をしていた。

ばあちゃんは・・?

寝かされていたところにシートが敷かれ、
雨よけにもなっていない簡易なテントが見えた。
僕が寝かされていた隣に、青いシートがかけられているふくらみがひとつあった。
他に誰も人がいない。
折からの強風にあおられて、ばたばたとばたつくシートから覗いたすき間に、
小さな手が出ていて黒い紙がくくりつけてあった。
『ばあちゃん・・・ばあちゃんだ・・待ってくれ・・そこにまだばあちゃんが・・』
必死にもがいても、体も声も縛られたように動かせなかった。
「僕はいいから、先にばあちゃんを助けてやってくれよーーうっ!!」
救急車の扉が締められ、サイレンが雨のしじまを縫って響き渡る。


明るい日差しが病室を柔らかく照らしている。
昨夜の嵐が夢のようだ。
体中が痛みと傷で腫れあがっても、
僕は現実感が感じられず、白い天井だけを見つめていた。
警察が来て祖母の悔みと、家は全壊したこと、
僕が生きていたことは奇跡だと告げて帰っていった。

幼い頃から走り回って虫取りをしていた裏の山が
大雨で崩れて襲い掛かってきたらしい。
大量の土砂と木が、すべるように二階にのしかかり
夏休みの宿題の工作のように、軽々と一階を潰した。
僕は二階の窓側にいたのと、ベッドとマットに挟まれたまま土に流されて
比較的浅い位置から見つかったらしい。
僕はそれだけ聞くとたまらずに、医師も看護師も止めるのも聞かず
点滴を自分で外し、病院を飛び出した。

この場所は僕が十年間ばあちゃんと暮らした場所だ。
その景色が一変していた。

父と母は十年前、夜中に喘息発作のおこした妹を病院へ連れて行った。
僕は八つだった。
寝ぼけまなこで、ひとり暮らしのこのばあちゃんちへ預けられた。

ちぇーっ・・と思ったんだ。
可愛い妹ばかりをちやほやして僕はおいてきぼりかよ、と。
その帰り道の事故だった。
居眠りのトラックに正面から追突され、乗っていたものは全員即死だった。
何もかもが変わったんだ、その時。
自分が持っているすべてを何もかも奪われたと思った。
楽しかった時間も、家も両親も・・。

世界は終わったと思ったんだ。
ばあちゃんを困らせて、泣かせたこともある。
「ばあちゃん・・ごめんよ・・。僕・・。」

僕は死神みたいだ。周りに死をもたらすしかない死神みたいだ。
山に沈んだ家のこんもりとした塊の前で、僕はへたり込んだ
涙すらでてこなかった。

見上げると、崩れた山の向こうの視界が開けて見える。
昨日の嵐に洗われたようなぴかぴかの青空に、
真っ白い雲が大急ぎで流れて行く。
自分が生きて来た十八年間すべてが、また音を立てて崩れ去り
飛び去ってゆく気持ちがした。

すかすかで、からっぽの僕。

想い出のつまったこの場所すら、この地上からなくなったんだ。
僕を産んでくれた両親。育ててくれたばあちゃん。
そんなわずかな記憶の形でさえ、僕にはもうないのだ。
この世界で僕はなんて孤独なんだろう。
僕のことを知らないモノばかりの世界で、
僕は本当に生きているのだろうか。

生きていていいのだろうか・・。


こんもりした瓦礫に目を落とすと、目の端に何か赤いものが動いた。
人か・・?
誰もいないと思って、火事場泥棒よろしく金目のものを物色しに来たのかもしれない。
こぶしを握り締めると、立ち上がってその人影をにらみつけた。
しばらく見ていると・・
・・あれ?女の子だ・・?
茶色系の制服らしきものの上に、赤いカーディガンを羽織っている。
こちらに気づいたらしく、手を振りながら走ってくる。

それが突然ふっと視界から消えて、彼は驚いて二、三歩前に足を踏み出した。
・・なんだ・・何かにつまづいて転んだらしい。
転んだまま少し足元をごそごそ探っていたが、
再び起き上がるとまたこちらに走ってきた。

「わぁー!すごいね!本当に生きているんだね!」
そう言うと、走ってきた勢いでどん、と腕を背に回わし思い切り抱きしめた。
思わずうっ・・と声が漏れる。激痛が足から頭のてっぺんまで貫いた。
「あっ・・ごめんごめん。つい・・。」
少女はぱっと手を放し、にこにこと見つめた。
中学生くらいだろうか、髪の毛は三つ編みにしてひとつに結ばれていた。
小柄で白い顔、決して細くはない弓型の眉が優しい曲線を描いていた。

「君・・だれ?何してるの、ここで?」
ようやく口をついたのはその言葉であった。
少女はむぅーと口を尖らせた。
「なに解らないの?私は直ぐに解ったのに!」
そして一字一句はっきりと言った。

「やだなぁ・・。お・に・い・ちゃんっ!」

僕は何度か口を開いて閉じる、という動作を繰り返した。
しばらくしてようやく声が出た。
「ア・・スカ・・なの・・・?」
少女は下からねめあげるようにして片目を瞑ると、
親指を立ててイエィ!とほほ笑んだ。


あの時アスカは思ったよりも重症な喘息と診断され、入院させられたのだ。
その準備と、預けた僕を迎えに行くために、
車を走らせていた時の事故だったのだ。
そのあとすぐに、アスカは子供を望んでいた遠い親戚の養女となった。
ばあちゃんは、兄妹がばらばらになることを最後まで反対したが
養父母は欲しいのは可愛い女の子、だったのだ。
しかも条件は、アスカに悲しいことを思い出せたくないので
今後一切こちらとは縁を切りたい、会えば混乱して懐かなくなるかもしれない
決して会わないでくれ、というものだった。
夫は働き盛りに病で亡くなり、
自分も持病を持っていて、いつどうなるかもわからぬばあちゃんは
この条件を結局飲むしかなかった。

『アスカもいなくなるの?』
僕はまだその時のばあちゃんの涙を覚えている。
『ごめんねぇ。ばあちゃんが元気ならずっとみんな一緒に暮らせたのになぁ』
ばあちゃんは僕にすがるように、
小さな身をもっと小さく縮めて、声を上げて子供のように泣きじゃくった。
ばあちゃんは頼りにしていたひとり息子と、その嫁と、
目に入れても痛くないほど可愛がっていた孫娘とを
いっぺんにうしなったのだ。
『リョウタはばあちゃんと一緒に暮らそうねぇ。』
僕が大きく頷くと、ばあちゃんは涙を拭いて僕の手をぎゅっと握ったんだ。
『いつも一緒にいるからね?幸せになろうね?』


「おにいちゃん、聞いて?」
僕は別れてから一度もあったことのない妹に、昔の面影を探した。
でも浮かぶのはおかっぱ頭とくりくりした大きな目だけだ。
「お兄ちゃんには内緒にしていたけれど、私おばあちゃんと会っていたの。」
「えっ!?」
「勿論育ててくれた両親にも内緒。」
うふふ。とアスカはちょっとずるそうに笑って、口元に手を当てた。
「両親は小さい私は騙せてると思っていたでしょうけれど、甘い、甘い。
私が本当のおとうさんや、おかあさんや、
お兄ちゃんを忘れるわけないじゃん。」

僕も覚えてはいるが、
アスカの幸せのため・・というあちらの言い分を守って
子供心にも、アスカはもういないものとしていた。
勿論会いたいな、と思うことはあった。
元気でいるのかな?
もう小学校入っているな。
友達いっぱいできているかな?
泣いたりしていないかな・・?
季節ごとに思ったりしていたが、
会いに行く、という選択肢は僕の中にはなかった。

「両親には言わなかったけど、
大人になったら、絶対私お兄ちゃんのところに行くんだって決めてた。」
「私、もらわれっ子ってことはずっと解っていたわ。
父も母もすごく私に気を遣っていたの。
大事にもしてもらってる。
だから私はずっといい子をしていた。
でもすごく、おにいちゃんやおばあちゃんに会いたくてたまらなかった。」
アスカは真剣な顔をした。
「お友達の家にお泊りする時があってね?
一日多く嘘を言って、私おばあちゃんのところに来たの。
おばあちゃんはびっくりしたけど、
直ぐに顔を見て私だって解ってくれて、すごく喜んでくれた。
おばちゃんが心臓悪かったの、お兄ちゃん知ってた?」
僕は頷いた。
「でもいつも大丈夫だよ、って言ってたよ。」
「うん。私にもそう言ってた。
でもそれから何度もコッソリ会うようになってね?
おばあちゃんと話し合ったの。
その時におばあちゃんが、もし自分に何かあったら、
おにいちゃんを助けてほしいって。」
アスカが肩から斜めにかけた大きめのポーチから、大事そうに手紙を取り出した。
宛名に大きく『リョウタくんへ』と書いてある。
ばあちゃんの字だ。僕はそっと封をひらいた。



リョウタくんへ。

これを読んでいるという事は、きっとばあちゃんはもういないんだろうね。
アスカちゃんは素敵な娘さんになっていて、
リョウタくんのビックリのお顔が見られないのが残念です。
銀行にばあちゃんの実印と大事な書類、遺言書を預けてあります。
じいちゃんはあなたたち二人が、
二十歳になるまで困らないだけの資産を残してくれました。
それにリョウタくんとアスカちゃんのお父さんお母さんのお金もあります。
学費も生活費も、なんでもここから出してください。
アスカちゃんはあちらのおとうさんおかあさんに、
とても大事にしてもらっているようなので
ばあちゃんは心配はしていないですが、
リョウタくんはひとりぼっちになってしまいます。
ばあちゃんがいなくなったら、どうぞリョウタくんが寂しくないように
アスカちゃんは、沢山相談にのってあげてください。
たった二人きりの兄妹なのですから。

あなたたちに会えたことは、じいちゃんのところにお嫁入した事とおんなじくらい
ばあちゃんはしあわせだったですよ。
だからどうか、リョウタくん、アスカちゃん。
いっぱいしあわせになってください。
本当にたくさんありがとうね。
健康で元気でいてね?

ばあちゃんより




「僕は・・」
喉の底から声が絞り出すようにでた。
「僕は・・こんなの・・いらない。」
手紙を持つ手ががくがくと震えた。
その手をそっとアスカが握ってくれた。
「こんなのいらない・・。僕は・・ばあちゃんがいてくれたほうが・・ずっと・・。」
うんうん。とアスカが頷いた。
「そうだね。そうだね。」
混乱して焦点の合わない視界に、アスカの大きな瞳が潤んでいるのだけが見えた。

「僕は空っぽだ。もうなんにもないんだ。」
「おにいちゃん。大丈夫だよ。
おにいちゃんは空っぽなんかじゃないよ?。私がいるもの。
私と一緒にゆこう?一緒に暮らそうよ。お母さんたちだって解ってくれるよ。」
踏ん張っている大地がふいに消えたような気がして、
僕はぺったりとその場にへたり込んだ。
「なんにも僕にはなくなっちゃったんだ。
僕と一緒に生きていた人たち、住んでいた場所、想い出の場所もなんにもない・・。」
「おにいちゃん、おにいちゃん。
おにいちゃんは今生きているよ?
おにいちゃんはみんな覚えているのでしょう?
覚えていればなんにもなくならないよ?
それにこれからは私が一緒だから、その分だんだん増えてゆくんだよ?
楽しいことも辛いことも、みんなまとめて二人で積み重ねてゆこうよ。」

アスカは僕の頭をぎゅうっと抱きしめた。
「おにいちゃんはひとりなんかじゃないからね?」
頭の上でその声が優しく響いた。

ようやく僕の眼に涙が溢れた。
胸につかえていた固く大きいものが流れ出したのだ。
ばあちゃんの手紙を握りしめ、声をあげて泣いた。
僕が泣き止んで静かになるまで、アスカは忍耐強く僕の頭を、
優しくぽんぽんと手のひらで叩いて、落ち着かせようとしていた。
アスカの幼いながらの懸命の優しさが身に沁みて、
余計僕は涙を止めるのが難しかったが・・。


銀行には思った以上の貯えがあり、
名義も僕にすでに変えられており、
煩雑な書類の手続きもさしてすることもなく
ばあちゃんの保険金だけでも充分葬儀も、
小さいながらもアパートも借りることができた。

一緒に暮らせないと解るとアスカはかなりごねたが、
自分の事で、今までアスカと養父母たちが築いてきたものを壊すのは不本意だった。
「高校はもうすぐ卒業だし、
大学に行くお金も、もうばあちゃん用意してくれていたんだ。」
ばあちゃんの四十九日の法要で集まった時、
参列してくれたアスカとその養父母の前で、これからの事をきちんと話をした。

葬儀の時、びっくりするほど沢山の数の参列者をぬって
この養父母から声をかけられた。
「あなたを引き取れなかった事、
ずっとあなたにもおばあさまにも申し訳なく思っていたのよ。」
「でもおばあさまに、私たちはアスカちゃんだけでも元気に幸せに過ごしてゆけるのなら
それがありがたいのですよ。」と言われてね・・。

僕は頭を下げた。
それだけ聞けば、もう僕は充分だと思えた。
「僕とばあちゃんとの日々は、とても豊かでした。
僕は本当に幸せでした。
長い間アスカを大切にしてくださって、ばあちゃんも感謝しています。」
それを聞くと、養母はぽろぽろと大粒の涙をこぼした。
「大きなおばあさまでしたね・・。」

ばあちゃんは銀行の金庫に、自分の葬儀用の写真までちゃっかり入れてあった。
僕が夏休みに撮ったものだ。
ご近所の人達も手伝ってくれたが、
何もかも土に埋まった家から取り出せたものは、
二階に置いてあった僅かなアルバムの写真と
僕の学用品と数冊の本だけだった。

それからも学校の友達や先生や、近所のばあちゃんのお友達やら
沢山の人が関わって、いろんな面で助けの手を伸ばしてくれた。
『有難いねぇ』というばあちゃんの口癖が身に沁みた。
養父母も一緒に住むかい?と言ってくれはしたが、僕は丁寧に辞退した。
直ぐに働く事も考えたが、ばあちゃんが貯めていてくれたお金に甘えて
大学に行って、専門職を手に付けたらきっと将来長く役に立つと思えた。
今度は僕が誰のためになにか手伝える仕事がいい。
自分への未来投資だ。
これならばあちゃんも喜んでくれると信じる。

引っ越しの片づけを終えながら考える。

幸、不幸とはなんだろう。
僕は人生にたくさんのものを奪われた。
奪われてゆくものばかりが大事なものだと感じていた。
でも喪うたびに、僕は新しい物与えられていたんだ。

両親の代わりにばあちゃん。ばあちゃんの代わりにアスカ。
勿論それは、喪ったものの代わりにはならないことは解ってはいる。
その絆は、たったひとつ唯一のものだ。

でも僕が生きている限り、この絆はもっと増えてゆくだろう。
それにその喪われた絆も、消滅するわけじゃない。
僕の中に残って積み上げられて、
その上に地層のように重なり合って降り積もるんだ。

手元のスマホがちかちかとライトを点滅させていた。
ラインが来ていたらしい。

アスカだ。

開くと元気なスタンプと共に、近況を知らせてきていた。
このスマホも、養父母たちがアスカの連絡用にと買ってくれたものだ。
有難く使わせていただく。
まだ自立するには未熟者な僕だが、
いつかきっと僕を必要としてくれる人がいるはずだ。

それまでばあちゃん、踏ん張ってみるよ。

僕は久しぶりのちょっぴり笑顔で、
箪笥の上に鎮座している、大笑いしたばあちゃんの写真と、
その横の小さな家族写真に手を合わした。




「シズさん。」

忘れもしない懐かしい声だった。
「ただいま。マコトさん。」
にこにこと昔のままの優しい笑顔で、夫はこちらを見ている。
「よくがんばったね?お疲れ様。」
彼女の頬に少女のような赤味と笑顔がこぼれた。
「長い事お待たせしてしまいましたね。寂しい思いをされておりましたか?」
マコトは満面の笑みで答えた。
「いえいえ。頑張っているシズさんを拝見しているだけで、
こんなに楽しいことはありませんでしたよ。
二人でこの道を歩きたくてお待ちしていました。」

そこに足元を一頭の犬がまぶりついてきた。
「あら!コタロウも来てくれていたのね!」
コタロウは賢し気にぴんと尻尾をたてて、スキップでもしそうなくらいだ。
リョウタが来る数年前まで、独り暮らしのシズのところで長く相棒だった犬だ。
シズがしゃがんでぐりぐりと頭を撫でまわすと、
ぺったんこになって尻尾をちぎれそうに振りたくった。
そしてまた、ぴょんぴょんと横跳びでまとわりつく。
年をとって足をひきずるようになっていた姿はもうない。
思えば、シズも今まで辛かった体中の痛みがないことに気づく。

シズとマコトは顔を見合わせて笑い合った。
コタロウはふたりの先に立って、ふり向きふり向き霧の薄くなった道を歩く。

「マコトさんにお話ししたいことがいっぱい。」
シズは満足げにため息まじりに囁いた。
「まずマコトさんによく似た孫のリョウタくんのことね。
とってもとってもいい子なのよ?」

ふたりは光の中にゆっくりと消えていった。








  ΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨΨ

毎年あげているお誕生日企画です。
今年は家庭の事情もありまして、なんと肝心なお誕生日にあげられませんでした。
本当に申し訳ありません。

気を持たせてお待たせして、さあどうだっ!
というものでもなく・・・いやはやお恥ずかしいばかりです・・。

実はシズさんは僕の大好きなキャラクターのひとりで、この悲惨な最期は
不本意でなりません。
で、蛇足的なシーンを前後に入れさせていただきました。
ご笑納くださいませ。

遅れたからと言って
決して大事な友人の大切な日を、ないがしろに思っていたわけではありません。
でも、本当に申し訳ない。
毎年心から君のこの世に生まれてきた日を
とてもとても嬉しく思っています。

お誕生日、おめでとう!

どうぞこれからの日々が、君にとって豊かで心楽しい物でありますように。

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蒼天 [雑記]

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リヴリー小説 短編 『これが 僕』  [創作]

僕はみんなとは違う。
みんなのような美しい毛並みも
優しい声もでない。

僕は醜いから、一緒に笑い合う友達も
一緒に暮らす家族もいない。

僕は小さく小さくなって
暗い葉っぱの陰のほんの隙間から、元気に跳びまわるものたちを
毎日毎日そっと覗いて見ているだけ。
だってもし見つかったりしたら、きっと怖がられるか
ひどくいじめられてしまう。
僕のおとうさんが言ったんだもの。
「お前は醜い出来そこないだから、誰にも愛されない。
恥ずかしいからお前は外に出てはいけない。」って。

そのおとうさんも、もうお家に帰ってこなくなった。

僕はひとりぼっち。

仕方ないさ、僕は醜いできそこないなんだもの。

でもひとりぼっちは淋しくて、僕はこっそり外に出たんだ。
そしたらそこで見つけたんだ。

草原を元気に跳びまわるふわふわの茶色い生き物を。
眼はお空のような青色でキラキラしていて
走ったり急に停まったり、お空を見上げて、コロンと転がったり
大きな声で歌ったり笑ったり、なんて美しくて楽しい生き物だろう!

見ているだけで、僕は楽しくなったんだ。
僕は毎日昼も夜も、雨の日もお天気の日も
その草原で、この生き物が来るのを草の陰で待ち続けた。


時々その生き物は、彼よりも少し大きいけど
赤いもしゃもしゃした生き物も連れてくる。
この生き物にはぴかぴかしたくちばしがあって、優しい声で話をしていた。
この生き物は、ふたりになるともっと元気に草原を走り回って、
大きな声で笑い合っていた。

今日も僕はこっそりこのふたりから隠れて、様子をみていたんだ。

するとさっきまでいた茶色のほうが見当たらなくなったの。
赤い方がのんびりあちこちを見ながら、いったりきたりしている。
僕はついそーっと頭をのぞかせて、茶色のふわふわを探したんだ。

「やあ!こんにちはっ!」
後ろのすぐ近いところから声をかけられて、僕は飛び上がった。
「僕はイェルクッシェ!元気なトネビだよ!」
「君はいつもここにいるね!いっしょに遊ぼうよ!」
僕は慌てて葉っぱで顔を隠した。
「ごめんね・・ごめんね・・?わざとじゃないんだ。
君たちがあまりに楽しそうで・・。」
僕が後ずさりをしながら逃げようとすると、イェルクッシェくんは首をかしげたんだ。
「どうして謝るんだい?一緒に遊ぶと楽しいよ?」
僕は泣きそうになって叫んだ。
「だめだよ、だめだよ!僕はとっても醜いから、ここから出ちゃダメなんだよ!」
その時草原から赤いもしゃもしゃした方も、そばに来てにこにこして言ったんだ。
「醜い?誰が言ったの?君はとっても素敵じゃないか!」
「僕はノド。ムシチョウだよ。」

ステキ?
こんな優しい声をかけてもらったのも、ステキなんて言われたのも
僕は初めてだったんだ。

あっというまに僕はイェルクッシェくんとノドくんに両方から挟まれて
一緒に走っていたんだ。

キラキラしたお日様の下を、全力で走るってなんて心地いいんだろう!
草原の草がぱしぱしと柔らかくお腹や足に当たって音を立てる。
その度に昨日の雨で、葉っぱにたまったしずくが、
きらきらと虹色に輝いて僕らを包むんだ。
イェルクッシェくんが上を向いてアハハハハ!って笑って
ノドくんがきゃーーっ!って歓声をあげると
むずむずして、僕も力いっぱい声をあげてみた。

きしむような金属音。


僕ははっと口を閉じて立ち止まる。

大変な事をしてしまった・・。
大きな声を出すなんて。
僕はうずくまって目を閉じた。
きっとイェルクッシェくんもノドくんも耳を塞いで言うんだ。
『なんてひどい音だ!お前なんてあっちに行け!』
そう。おとうさんみたいに・・。
折角オトモダチになれたかもしれないのに・・。
台無しにしてしまった・・。

急に僕が停まったせいで、イェルクッシェくんもノドくんもころころと前に転がった。
イェルクッシェくんは転がりながら、そのまましゅたん!と言って立ち上がって
体操の選手のように両手を挙げた。
ノドくんはもごもごと起き上げると、そのイェルクッシェ君を見て
ぱちぱちと手を叩いて目を丸くしていた。
「すごいなぁ!イェルクッシェくんはかっこいいなぁ!」
そしてふたりはにこにこして僕のところに戻ってきたんだ。

「あんなふうにすぐ止まれるなんて、君はすごいねぇ!」
「大きな声出るんだね!とっても大きなオルゴールみたいだね!」
「僕は・・」
僕は顔を上げることも出来ずに言った
「こんなに醜くてひどい声なのに、君たちは友達でいてくれるの?」
ふたりはぽかんとした顔で、顔を見合わせました。
「君はおかしなことを言うねぇ。」
「僕は君が醜いとも思わないし、ひどい声だとも思わないよ?」
ふたりは一緒ににこにこと頷き合いました。

「君は君だよ。」
「そうだよ、君はそのままで君じゃないか。
僕は君の声も姿も素敵だと思うし、好きだよ?
僕らはもう友達だよ!」
今度は僕がぽかんと二人の顔をみつめました。
「僕のままで・・いいの・・?」
ふたりは声を合わせて言いました。
「もっちろんっ!」

これが僕。
つるつるの硬い鎧のようなものに覆われた姿。
鋭い爪のついた長すぎる手足。
おとうさんができそこないと言ったけれど
そうなんだ、これが僕なんだ。
沢山の言葉の刃で切り付けられ、生きて行くことも否定され
誰にも愛されることも、愛することもない。

いや・・。違う。

僕であることを僕が認めてあげなかったんだ。
認めてあげよう。
僕のことを友達と呼んで、僕のままでいいって認めてくれるものがいる。

胸の奥が張り裂けそうになった。
初めて悲しみではなく、溢れだす歓びで。

イェルクッシェくんがぎゅうっと僕を抱きしめた。
ノドくんがその上からぎゅうっとふたりごと抱きしめた。

「あ・・りが・・とう・・。」

やっとひとことそう答えられた。

イェルクッシェくんがあはははははと上を向いて笑った。
ノドくんがうふふふふと笑った。

「僕はぷろとたいぷmしりーず 6号」

「長い名前だねぇ!ぷろとくんだね!よろしくね?」

こうして僕らは出合い、長く長くお友達になったんだ。


今日はそんな僕にとって特別な日。
大切なお友達の生まれた日なんだ。
それと、僕のお誕生日が解らないって言ったら
イェルクッシェくんがぽんと手を叩いて、
じゃあ僕と一緒にしようよ!って言ってくれたんだ。
だから今日は僕とイェルクッシェくんのお祝いをするんだと
ノドくんやふたりのお友達のリヴリーたちが
大騒ぎでお誕生日の用意してくれているんだ。

ホントは内緒だけど、僕はプレゼントや御馳走よりも
イェルクッシェくんやノドくんの笑顔を見ている方が
ずっとずっと幸せな気持ちになるんだ。

最近僕はとても眠くなって、あんまり長く動けなくなってしまったけど
胸の奥深く溢れてくる歓びは
今もずっとずっと続いているんだよ。

僕はもうひとりぼっちじゃない。

イェルクッシェくん、お誕生日おめでとう!
生まれてきてくれてほんとうにありがとう。


どんな時もいつまでも、僕は君たちの友達だからね?



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ギンモクセイ [創作]

「あ・・っ」
思わず声が漏れた。
漕ぎだしたペダルがふっと抵抗をしなくなった。
チェーンが外れたのか、からからと音を立てながら自転車は動かなくなった。
あああ・・何もこんな時に・・。
今にも降り出しそうな重い曇天の下、緊急の夜勤に呼び出され
しばらく使っていなかった自転車を引っ張り出して、
30分の道のりを飛ばしていたのだ。
アキは自転車から降りるとかがみこんでため息をついた。
「もう・・信じられない・・・。」
見事にチェーンがゆるゆると外れているのがわかった。
アキは入れ込もうとチェーンを引っ張って何度もチャレンジしたが
錆びついてでもいるのか、どうしてもうまくかみ合わない。
「もうっ!!」アキはべとべとした手を持っていたテッシュで拭いたが
気持ちの悪さは拭えない。
ポケットからスマホを取り出すと、
職場の介護施設に少し遅くなるかもしれない状況を報告し
閉じようとして一番上にある名前のところで手がとまる。

アキの5年来の恋人のユウだ。
そのまま電話を繋ぐ。
「どうした、アキ?夜勤に行くんじゃなかったの?」
ワンコールもせずにユウの声が耳を打つ。
「自転車のチェーンが外れて入れられないの。」
「えっ?大丈夫?怪我はない?」
慌てるさまが目に浮かんで、なんだかほっこりと胸があったかくなる。
「大丈夫よ。仕方無いから自転車おいてこのまま仕事に行くわ。」
しばらく間が開いた。
「僕が迎えにゆければいいんだけど・・。ごめん。今仕事の打ち合わせで・・。」
最後の方の言葉がつっかえるように言いよどむ。

あれ?っとアキは思った。

前会った時、今日は私の誕生日なので仕事入れないよ、って言っていたのに。
私に急に夜勤の連絡が来て
会えなくなっちゃったと連絡したのはほんの2時間ほど前なのに・・。
「いいのよ。大通りに出ればタクシー拾えるし・・。行ってきますね?」
明らかにホッとしたような声が「いってらっしゃい」と何の余韻もなく電話は切れた。

なんかユウ君らしくない・・変。

急に風が冷たくなり、ぽつぽつと雨が降ってきた。
西からの集中豪雨のニュースも流れていたので、
アキは慌てて自転車を邪魔にならないところに鍵で繋いで、道を急いだ。
大通りに出た頃には、雨はどしゃ降り。
たちまち体が冷え切ってくる。
こんなびしょびしょじゃタクシーも乗せてくれないわね・・。
あと20分も歩けば職場につく。
意を決して、アキは雨の中を走りだした。

ほの暗い街には点々と様変わりする店舗やレストランが、
ぽつりぽつりと柔らかな淡い光を灯して、雨の街ににじんでいる。
半数はシャッターが降りてしまっている過疎の街ではある。
その中のひとつの喫茶店は、アキとユウがよく時間を忘れて話し込む
窓の大きなお気に入りの場所だ。
職場へは通りが違うのでいつもは通らないのだが、大雨を出来るだけ避けて
アキは軒の連なる店舗街へ走りこんだ。
ついいつもの喫茶店へ目をむけると、懐かしい顔が目に入った。

ユウだ。

あら・・?こんなところでお仕事の打ち合わせ・・?

ユウはかがみこんで机上の書きこみを懸命に読んでいるようだ。
向かいには若い女性が座って、やはり同じように同じ書きこみをのぞき込んでいる。
狭い机の上で頭を突き合わせているので、触れ合うように顔を寄せて見える。
ユウの口が動き、それに応えて女性が顔をあげて笑顔を見せた。

アキの顔から血の気が失せた。
女性はアキの高校から親友のマキだった。
「どういう・・こと・・?」
頭の中が真っ白になった。
ユウ君・・仕事って・・私に嘘をついて・・。
なんでよりによって・・マキなの・・?
疑いは妄想を生み、膨らんでゆく。

私・・ずっと・・騙されていたの・・・?

20代後半の5年というのは、微妙な時期だ。
当然、結婚というのも視野にいれる。
友人たちも次々に嫁ぎ、親からのそろそろ・・とのプレッシャーも大きい。
ユウの態度から自分もいつかユウと結婚して・・と考えていた。
今思うと、それとなくそういう話題をふってみても、
なんとなくはぐらかされていた気がする。

それが・・こういうことだったの・・・?

アキは逃げるように窓から離れた。
怒りよりも悲しみが胸を覆った。
ひとりよがりで想っていたことなのかと、むしろ恥ずかしかった。
顔を打つ雨が激しくて、もう雨だか涙だか鼻水だか、自分でもわからなくなった。

気が付くと職場についていた。
大きなバスタオルを掴んでロッカーに駆け込み、
置いてある替えの下着と制服に着替えると
真っ赤に泣きはらした目が鏡に映った。

「大丈夫。今だけ頑張ろう。今だけ、今だけ何も考えない。」

頬をぱんぱんと出場前のプロレスラーのように叩き、
よっしゃあ!とアキはロッカールームを出た。
直ぐにスタッフルームに行くと、真剣な面持ちで先輩が立っている。
「何か急変ですか・・?」
アキが尋ねると、

「北の505号室のスズキさん。アキさんの担当ですね?」
「はい。」
介護士になって最初の時からずっと担当していた利用者さんだ。
孫のようにアキのことを思ってくれているのか、
ずっと変わりなく可愛がってくれていた。
アキは寒さだけでなく、心底震えた。
スズキのおばあちゃん・・昨日まであんなに元気だったのに・・なにかあったの・・?
「すぐに行ってください。」
「はいっ!」

アキがゆくといつも開いている部屋の扉が閉まっている。
ここは5人部屋なのだが、今はスズキのおばあちゃんとタカハシさんが暮らしている。
灯りも消えている。
アキはおそるおそるドアをノックした。
「スズキさん、タカハシさん。アキです。はいりますよ?」
中に入るとカーテンが皆閉じられている。
アキは入口の電気のスッイチを入れて、
一番手前のスズキのおばあちゃんのカーテンの中に入った。

彼女はベッドに寝ていた。

「スズキさん・・?どうかなさいました?アキですよ?」
スズキさんの閉じた瞼と口元がぴくぴくと痙攣した。
「スズキさん・・?」
アキが手をそっと握ると、スズキのおばあちゃんの目がぱっちりと開いた。

「アーキちゃん!おめでとーうっ!」

アキはぽかんとスズキのおばあちゃんの顔を見つめた。

スズキのおばあちゃんはむっくり起き上がると、アキに抱きついた。
「アーキちゃん、お誕生日、おめでとーうっ!!」

「え?え?」

その時閉まっていたカーテンが音を立てて開かれた。
「アキさん、ハッピーバースデーイッ!!」

アキはびっくりして飛び上がった!
開いたカーテンの後ろには、アキが担当している利用者さんが杖で支えられ
車椅子を押され、皆、手に手におめでとうと書かれたカードを持ち
手の空いたスタッフと共ににこにこと集まっていた。
一番後ろには先ほどの先輩が、くすくす笑っている。

「なに・・?どうして・・?ええーーっ?!」
アキはきょろきょろと周りを見渡した。
みんなが一斉に笑う。

「アキさんのお誕生日、みんなで何かしたいねと言っていたの。」
タカハシさんが笑顔で話した。
「スタッフの方々が協力してくれたのよ?」

その時、扉が開きみんなが一斉に向き直った。

「ユウ君・・・?」

彼は一張羅のスーツを着込んで手に赤い薔薇の花束を持って立っている。

ぎくしゃくと彼はアキに近付くと、目の前で片膝をついてアキの目をみつめた。

「アキさん。僕はあなたと幸せな家庭を築きたい。
どうか、僕と結婚してくれませんか?」

え?え?なにこれ?プロポーズ・・?

アキははるか遠くの方で自分の声を聞いた。

「もちろん。喜んで・・」

うおおおおおーーと外野の方から声が上がった。
扉の向こうで親友のマキがにこにことこちらを見ている。

そうか・・この打ち合わせを二人でしていたのね・・。
こんなこと、ユウ君じゃ考えないもの・・。
マキの入れ知恵ね・・。

胸ポケットから取り出した小さな四角い箱から指輪を出すと
ユウはアキの指に細い指輪をはめた。

「今はまだこれしかできないけど、絶対幸せになろうね?」
アキの目からぽろぽろとあったかい涙が溢れた。
頷くたびにそれが胸に落ちた。

スズキのおばあちゃんが自分も涙を流しながらそれを見ていた。

「アキちゃんはいい子だからねぇ。みんな幸せになって欲しいんだよ。」
そして笑顔のまま目を閉じた。
「こんな幸せな日に立ち会えて、ほんとに今日はいい日だねぇ!」

しばらくしてぽんぽんと先輩が手を鳴らした。
「はーい。お開きねー。みなさんお部屋に戻ってくださいね?
アキさん、呼び出してごめんね。
今日は本当は予定通りお休みなのよ。
ユウさんとこのままお帰りなさいね。
明日は早番、忘れないでね?」

「ありがとうございます。みなさんほんとうにありがとう。
私、今日の事ずっと忘れないね?」

そしてマキの方に走り寄ると、きゅうっと抱きしめた。
「ずっと親友でいてね?ありがとうマキ。」
マキも泣きながらぎゅうっと抱きしめた。
「お幸せにね。」

「ユウ君。私すごく嬉しいわ。」
ユウの車に乗せられて、アキは自宅に着替えに向かっていた。
「これからが始まりだよ。僕は君のご両親にも許可をもらいに行かなくちゃ・・。
アキのお父さん怖そうだもんなぁ・・。でもアキをもらうためだ、頑張らなくちゃ。」
「ユウ君のご両親のところにもゆかなくちゃね。」
「それは任せとけ!もう許可はもらってる。」
「ええーー!私よりも先に?」
「うん。どうしても店を継がせたいというからさ、それの説得に手間取ったよ。
アキは今の仕事に誇りをもっているからね。」
ちゃんと考えていてくれたのね、
私の事真剣に・・。
大丈夫だわ、私。
ユウ君となら私は私らしく、ユウくんはユウ君らしく二人で生きて行ける。

雨はいつの間にか通り過ぎて
雲の間にまあるい月がまぶしいくらいに差し込んで
車の運転をするユウの横顔を照らしていた。
信号で停まると、雨に濡れたアスファルトに反射して賑やかな色が混じり合う。
アキが窓を開くと、光の届かない夜の闇に白い小さな花が浮かび上がる。
ギンモクセイだ。
幽かな甘やかな香りが車の中まで運ばれてきた。















ううーん。
書きたいことはいろいろあれども、
なんともはや・・。

あれもこれもと思ったのですが
すべて座礁・・。

で、何が言いたいの?ということで
必ずきっと、今はどしゃ降りの雨の中であっても
君は幸せになれるということ。
ならない訳はない、ということ。

だって君は何よりも素晴らしい
魂の炎を胸の奥に燃やしているのだもの。

お誕生日、おめでとう!

君の人生にいつも光が共にあるように。

2017年11月5日
我が友、Xephonさんへ。


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足音 [詩]

とんとんとん。

小さな足を踏み鳴らす

僕はここだよ
ここで生きてる
僕はここだよ
ここで笑っている

とんとんとん。

君のこんな近くで
僕は叫ぶんだ
君の心の上で
僕は歌うんだ

ほら
これは君の心臓と同じ音
ほら
これは君の呼吸とおなじ速度

とんとんとん。

僕と君

終焉と永遠



とんとんとん。

とんとんとん。











ことことと僕の中でずっと音が聞こえています。
気が付くとそれは彼の足音になっていました。
きっとこの音は僕の心臓と連動してしまったに違いない。

僕と共に生き続けてほしい。
たとえどんな嵐が吹いて、君の姿が見えなくなってしまっても。




リヴリーアイランドが続く事を渇望して。

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 [雑記]

彼を一言で言いあらわすなら
『人生の達人』だろうか。

仕事を楽しみ、家族を愛し、
ささやかな庭を慈しみ、花を育て
美味しいものを愛し、それを人にふるまうことに歓びを感じられる人。

大学の同期生だった奥さまは
ころころとよく笑い、よく語り
そのそばに寄り添うように、にこにこといつも彼は立っていた。
幼い子供相手に手抜きなしで全力で遊ぶ姿。
彼の周りはいつも賑やかな笑い声が満ちていた。

穏やかで親切で、こうありたいと思う具現化のような人。

僕と出会った頃にはもうすでに、難しい癌の手術を終え
ばりばりと働いていた。
それから5年。

食事制限。
さまざまな良かれと思うことを積極的に取り入れ
禁煙は勿論、大好きだったお酒も我慢していた。
それでも少しずつ少しずつ、癌細胞は生き延びてきたのだ。

再発からひと月と少し。
彼は亡くなった。

覚悟はしていたと思う。
家族皆にこれからの事をしっかりたくし
最期の日は、大好きなアイスを奥さまと楽しく口にし、
その元気な様子に、病室を出て帰宅しようとする奥さまに向かい
「今まで長い間ありがとうね。」というのが最期の言葉であったという。

そのまま昏睡状態に陥り、静かに眠るように亡くなった。
穏やかな穏やかな死であったという。


僕も今長い闘病の途中にある。
友人には病院通いの入院仲間も多い。
こんな環境の所為だけでもないだろうが、葬儀に参列することが多い。

腹水もたまり、抗がん剤の治療も苦しいものであったと思う。
だがこんなに穏やかな死に顔を拝見したのは初めてだった。
かすかに微笑んでいるようにさえみえる。
死してもなお、こうありたいと思える見事な死というものはあるものだ。

若くしての死は、ご家族にどれだけの哀しみだとは思うが
やりたいことをやり遂げ、大好きな人に囲まれ、これほど愛し愛された人生。
僕には眩しいくらいに羨ましく思えた。

葬儀は多くの友人知人が押しかけ、焼香の後ににひとりずつ声をかけて行かれた。
大きな声で「ありがとうございました」「おせわになりました」と
震える声でかけられる言葉に、彼の人柄がよくわかる。
大好きな丹精した庭の花を棺に溢れるほどいっぱいに、彼は旅立った。


彼の訃報に接してもう10日ばかりだろうか。
未だに僕は彼の事が頭を離れない。
冷たい頬に触れても、彼がもういないということに頭がついてゆかない。
今まで友人の死に接すると、僕は次は自分ではないかと心が震えた。

でも初めて僕は思ったんだ。
僕はまだ生きている。
まだ自分の思うことをこうして自分の体を使って出来るじゃないか。

怯え悲観して絶望する時間も
楽しく出来ることをする時間も、
僕が自由にまだ選べるくらいには生きているじゃないか。


彼はきっと言うだろう。
「僕の時間は終わったけど、君の時間はまだあるじゃないか。」
「悔やまないように、精いっぱい生きてゆけよ。君が楽しめばいいんだよ。」



この記事を書き始めた時
雨をぬって西の空に久々の見事な夕焼けをのぞんだ。
ふと振り返ると
反対の東の空に大きな明るい虹が綺麗に半円を描いていた。

もう一度激しく強く彼を思った。
涙が止まらなかった。

それでも口元にはようやく笑みが浮かべることができた。


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根性なしのハニーハント [雑記]

無抵抗のまるまるしたミツバチをぽかすかと退治するイベント。
攻撃するとハチは黒くなり下に落ちて動かなくなる。

13年前初代リヴリーを戦闘で亡くした僕は
リヴリーを戦わすことはもうしないと誓った。
今回のようなイベントでは相手は抵抗なくやっつけられるので
リヴリーを喪う痛みはない。

でもなんか嫌なんだ。
自分の大事なものが、
無抵抗のものを一方的に殴ってアイテムを奪う、というこのシチュエーションが。

Flash終了を受けて、最近いろいろ大掲示板でぼそぼそ意見を言っている手前
流石に嫌だから参加しませーん、じゃ説得力もないなぁと
一度はやってみるかと今回参加させてもらいました。
なんとか盛り上げるきっかけをつかめるかなぁという気持ちもありましたから。

パークでは放浪ではいない白ハチがいるので
コンプリートするにはどうしてもここに出現するハチを取りに行かねばならない。
僕のリヴリーのレベルは909。
あんまり人気のないムシチョウの種族経験値で、上位にランキングされている。
一番弱い投石の技で2回でハチは落ちてしまう。
そりゃあ一緒に集まった飼い主さんもえーーってなるでしょう・・。
高レベルのリヴリーが独占しちゃうよーと涙ながらも訴えも
大掲示板で複数見ていたし。

一度に出現するハチは5匹。
集まったリヴリーは4匹~7匹ほど。
初心者レベルの方にも行き渡らせたいので
誰かが攻撃してくれた留め射しをするしかないから
1時間3回ほどのトライでおおよそ5個から7個のアイテムを収穫。
白ハチは15匹、赤ハチは25匹、青ハチは35匹、
一番よく出る黄ハチは95匹でコンプーリート出来るのだが
この時点でもう頭がくらくら・・。
どれだけの時間と手間で、この気の使う作業をすれば・・。

せめて放浪の時の出現数がもっとあれば奪い合いにならないのに・・。


こんな仕様で盛り上がるのか・・?

時間と根性の無い僕はもうこりごり・・。

今回はVIPにしよう・・。

「はちみつホットケーキ」はうちの子は喜ぶだろうしなぁ・・。

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おたんこなす [雑記]

駅に向かう途中の細い路地裏。
50m弱くらいの長さだろうか、車が一台通れる幅の道路がある。
便利がよいので、駅に行く人や駐輪場に停めに行く人たちが
時間を選ばずいつも数人歩いている。
両脇が有料の駐車場であるため、まあ反対側から車が入ってきても
逃げ場がなく全く通れない、ということではないが
駐車場が満車であったりすると、車同士のすれ違いはかなり厳しい。
両入り口ともミラーはあるし、路地裏といえども直線なわけだから
侵入すればつまっちゃうな、というのは普通解るので
よほど強引に侵入しない限りは、お互いの譲り合いでトラブルにはならない。

先日たまたまこの道を歩いていた時
甲高い若い男性の声で「この、おたんこなすが~~っ!!」という罵声が聞こえた。
見れば僕の向かっていた方角の出口付近で、車が二台身動き取れずにいるようだ。
位置から言って、叫んだ男性の車の方が後から侵入してきたのは明らかだったが
反対側から僕の脇を抜いて進んだ車は、年配の男女が乗っていたようで
運転していたのはご婦人の方だった。
なんとか車を切り返そうと、歩いている人の見守る中
バックしたりハンドルを切ったり、見るからに危なっかしい。

若い兄ちゃん、バックしてやれよーと誰もが思ったと思うが
すでに兄ちゃんの後ろの侵入口には、3台4台ほど車が並んでしまっている。
沢山の見物客の中での
混乱と羞恥の中での思わず出てしまった「おたんこなすー」の一言だったと思うが
これには、この車の所為で歩みを止めさせられていた通行者の
一斉の失笑をかってしまった。

まあ、間抜けとかノロマであるとかの意味の罵声ではあるが
この言葉を最後に耳にしたのはいったいいつだったろうか。
まして20歳過ぎたばかりくらいの男性が使うのを初めて聞いた。

「おたんこなす」は「おたんちん」から転化した言葉といわれる。
そもそもは遊郭などで嫌な客を表す隠語だったと聞く。

「馬鹿やろう」でも「阿呆」でも「間抜け」や「鈍間」でもなく「おたんこなす」。
勿論、自分の祖父母くらいの年配者に向かってとんでもなく失礼なことだし
まして非は若者の方にあると思える。
頬を赤らめて、汗をいっぱいかきながら運転していたご婦人には申し訳ないが
このなんとも子供っぽいその場にそぐわない言葉に
足止めされていた見物客たちはどっと笑った。

結局若い兄さんは、そこで見兼ねたらしい強面の労務者風の男性に
叱られながらも誘導してもらい、無事2台はすれ違って反対の方向へと走り去った。

言葉は生き物だと思う。
同じ状況で気持ちを伝えるのも、言葉のチョイスを間違えると取り返しのつかぬ事態にもなる。
きっとこの青年は、親やもしかしたら祖父母にこういわれて育ってきたのかもしれない。
決して褒められた言葉ではないが
語彙が乏しくなったと言われる昨今、もっと殺伐とした言葉しか聞かなくなった罵声も
こんな言葉一つでふっと冷静に返れるならそう悪いものじゃないかな、と感じてしまった。

どうぞみなさまも事故のないように。

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おわりのはじまり [雑記]

愛着だなぁ、と思う。

今の事務局にFlash移行の力と活力があるのか。


今回の事でつけ刃的に調べたところによると
Flashは今主流のMTML5のように信頼性が高いものではないらしい。
ネット上では重くセキュリティ面の脆弱性もよく問題視されていたし
故ジョブス氏はいちはやくFlashのスマホへの導入を見合わせたとも聞く。
地上波放送がデジタル放送に切り替えられたように
今の流れではFlashの終焉は致し方ないこととも頷ける。

ただ問題はゲームなのだ。
リヴリーアイランドなのだ。

育成してゆくのを目的で始められた
あったかくも優しいコミュニュティーツールを
美しくも愛らしい毎日の歓びとなっていた場を
殺伐とした殺戮や戦いの日々ではない穏やかなゲームを
永久に喪ってしまうのではないか・・という

ゲーム業界の稀有なる存在なだけに大きな損失になると思う。

これは長い時間をかけて飼い主とともに作られてきた、大切な財産だと思う。



これを移行できるのは、事務局の情熱だけだ。
護りたいという熱い想いだけなのだ。


あと3年。
されど3年。



僕は何が出来るだろうか。


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大好きなリヴリーアイランドの住人として。 [雑記]

不具合のメンテが始まって5日目。

大掲示板をみると憂える声で溢れている。

自分も先日のWindows10のedgeの強制更新で
すっかり使い勝手が悪くなったPCだから言うわけではないが

そりゃあ不具合もあるでしょう。

15年間の長い間、歴代のOSを乗り越え
それに沿うよう調整し調整し、遊べるように頑張ってきてくれていたのだと思う。

すぐに停まってしまったり、画面が真っ白になってしまったり
それでも何とか先週までは騙し騙しでも動いてくれていた。

だが今回は様相が違う。
あきらかにその場限りのメンテだからすぐに元の不具合に戻ってしまう。
しかも何も経緯の説明や、早めの不具合のためのメンテナンス予定の説明がないから
ユーザーには不安しかない。

おりしもMicrosoft社の方で3年後にFlashの終焉のニュースが伝えられたばかりだ。

運営も今まで何度か変わってきていた。
それほど思い入れはないのかもしれない。
ただのお金稼ぎのサイトのひとつだ、と揶揄する人も多い。
ただ積極的に研究発表会へ参加できた僕は、
直接スタッフの人たちと会うことが出来た。
彼らも僕たち同様、とてもリヴリーを大事に可愛く思ってくれていたと信じたい。

僕はこのリヴリーアイランドに13年ほど住んでいた。
今ここの住人は、僕のように長くここにいて
リヴリーそのものに愛着のある飼い主も多いと思う。
あかちゃんが生まれて、成長して義務教育を終えるくらいの年月。
自分の入院でどうしてもインできなかった時も
友人たちに支えられ生き延びてこられた大事なリヴリーは
もはや0と1の羅列で作られたものではなく
生活の一部となっていたことに気づく。
数カ月ぶりに目にした元気なわが子に、しばらく涙が止まらなかった。

そんな子を、こんな形で終わらせるのは心がどうしても納得できない。
ユーザーの気持ちをないがしろにして、逆なでするような
事務局の対応が納得できない。

不具合があったことは経験上仕方がないことだと僕は思う。
ただ問題なのはその後の対応だ。
説明してもどうせわからないだろう、というのは失礼な話だ。
いったい今何が起こって、
システムの移行は可能なのか、
それによって今後どうして行くつもりなのか
そもそもメンテをいれるつもりなら、最低でも前日までにユーザーに報告すべきだ。
それによってこちらも動けることも多々あるのだから。



勘違いしないでほしい。
僕らは運営を責めたいんじゃない。
ただ、リヴリーを活かして続けたいだけなんだ。


切に切に願う

僕は納得をしたいんだ。


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